失楽園(天使間アルマゲドン)

ルシファー、警告するアブデルに挑む!

ほくそ笑んだ背教の天使ルシファーは勢いづき、アブデルに問いかけました。
「なんと、我々は創造されたとお前は言うのか?
おお、なんという突飛な意見だ!
そういう教義をお前がどこから学んできたのか!
我々が創造された時、誰がそれを見ていたというのか?
創造主がお前に生命を与えた時、自分が造られたという記憶がお前にはあるのか?
我々は、かつて今とは異なる時間があったということを知らない。我々が存在する前にいかなる者が存在してたかも知らない。
運命の流れ、天の周期が一めぐりした時、我々は自分自身の生命力によって自ら生まれ出現した者なのだ。故郷であるこの天国で、機が熟し、天使として自らから出生した者、これが我々なのだ。我々の力は借りものではない。だから、この右手がする偉業が、我々と同等の者が一体誰なのかを教えてくれるはずだ。
その際、はたして、我々が全能の主の王座をとり囲み、うやうやしく哀願の言葉を言上するか、それとも攻撃するか。アブデルよ、お前のその眼で見るがよい。そして、この報告を、いや、この福音を、あの油を注がれた独り子にするがよい。さあ、早々に飛び立つがよい、悪い邪魔が入って飛んでゆけなくなる前にな」
ルシファーの言葉が終るや否や、騒然たる怒号の声が軍勢の間から湧きあがりました。ルシファーの言葉に対する喝柔がくり返しくり返し叫ばれました。

アブデル、再び敢然と立ち上がる!

ルシファーの多勢の軍勢の中で、アブデルはたった独りで怖気づくどころか、炎のように燃え言い放ちました。
「ああ、ルシファーよ、全能の主から疎外され、呪われ、すべての善から見放された者よ!
今こそ汝が堕落すべき運命にあるのを、また汝の不幸な仲間たちも汝の言葉に騙されているのを、わたしはこの眼ではっきりと見た。
神が定めたもうた王を拒もうとする考えは、もはや無意味だと知るがよい。豊かな温情が与えられる望みは、もはやない。汝が拒絶したあの黄金の王笏は、今、鉄杖となって、汝らを粉砕しようとしている。
ルシファーよ、すぐ立ち去れとの先程の忠告には礼を言う。だが、わたしは、汝の忠告、というより脅迫に屈して、今まさに亡ぼされようとしている宮殿の軍勢から逃げるのではない。今にも襲いかかろうとしている神の怒りが、炎となって燃え盛り、すべてを焼き尽くすのを恐れるからだ。覚悟するがよい、神の雷霆(らいてい)が一切を焼き尽くす火となって、汝の頭上に落ちるだろう。
ルシファーよ、汝を破壊し去る者が誰であるかを知った時、
改めて、汝を創造した者が誰であったか、汝は悟るだろう」
神に忠実な天使アブデルはこう忠告したが、彼こそは不忠な天使の中にあってただ一人の忠実な天使であった。
誘惑に負けることもなく、怖れることもなく、ひたすら忠誠を守り切ったのです。どんなに孤立無援であっても、真実から逸脱することもなく、不動の心を変えることもなかったのです。
アブデルは彼らの敵意と侮蔑にみちた眼差しの中、暴カを怖れる気配も全く見せず、悠々と彼らの間を歩いていったのです。そして、やがて、彼らの方に向かって侮蔑の眼差しを投げ、速やかな滅亡を迎える運命にある、彼らが林立する倣慢な宮殿に背を向け、立ち去りました。
もはや、天使間アルマゲドンを避けることはできません。

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