失楽園(天使間ハルマゲドン)

悪魔の新兵器が火を吹くと、神の軍団は壊滅状態に。

突然、ルシファー側の天使が一斉に手にしていた火のついた葦を大砲に差し出し、火穴に正確に押しあてました。と思った瞬間、全天は焔に包まれ、吐き出された煙で、真暗になってしまいました。
そこから発する唸り声は大音響を出し、あたりの大気に響き渡りました。まさに悪魔の吐き物ともいうべき、無数の鉄の弾丸を吐きちらし、大気をことごとく引き裂いたのです。
勝利を誇っていた全能の神の軍団めがけて撃ち込まれた弾丸。その猛威は、凄じい限り。本来なら毅然として立ちはだかるはずであった者も、弾丸を受けたが最後、誰一人として立ってはいられません。ただもう幾千、幾万となく倒れ伏すのみで、天使の上にさらに天使が覆いかぶさって転倒するといったありさまです。
武具を着けていたため、被害はかえってひどかったのです。なぜなら、武具を着けていなかったならば、霊質をもった天使らしく、素早く体を収縮させたり、位置を変えたりして、攻撃を避けられたからです。
しかし、今や惨めな潰滅と敗走は不可避です。密集隊形を解いても、もう後の祭り。今は、何をすればよいのか?
一方、敵は次の砲撃をしようと、別の一隊が待機しています。もし、突撃をあえてすれば、繰り返し撃退され、不面目な敗退を重ねることは必至。そうなれば、敵の優位がますますあがりるのは明らかです。

ルシファーと副官ベリアル、勝利を確信する。

敗北を喫してすごすごと退却して戻ってくることは、全能の軍団にとっての嫌悪するところです。この窮状を見たルシファーは、満面に笑みを浮かべながら、仲間に向かって面白おかしく言い放ちました。
「おお、わが戦友たち!
勝ち誇っていたあの連中が進撃してこないのはなぜだと思う?
先程まであれほど猛烈な勢いで攻め寄せてきたのに、こちらが歓迎の意を表わし、和睦の条件を提示したところ、なんとすぐさま心を変え、逃げ出し、果ては奇々怪々たる馬鹿騒ぎを始めている。
恐らく、平和の申し出(砲撃)を受けて、喜びの余り、気が変になったのかもしれぬ。
だが、もう一度、我々の提案たる砲撃が耳に入れば、さすがの彼らも、きりきり舞いをして音をあげることは確かだと思う」
ルシファーの言葉に、副官の一人ベリアルがさも面白そうに付け加えます。
「指揮者よ、まさに然り!
我々の送った条件が、大きな重味と痛烈な威力を持っていたようです。今まさに目撃した通り、彼らは度胆を抜かれ、転倒する者が引きもきらぬという有様。何しろこちらの条件をまともに受け取った多くの奴らは、倒れるだけの散々な状態。難を逃れた者さえ、威力に足をすくわれ、まともに立っていることもできません」
このように、ルシファーたちは『勝利はもはや疑いなし』と信じ、互に楽しげに、あざけりながら談笑していました。
新兵器をあれば、全能の神にも引けを取らないと自惚れ、神の雷霆、神の軍勢何するものぞ、と思い上がっていたのです。

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