大天使ミカエルの一撃
ミカエルの剣は神の武器庫からたまわったもの。さすがに鍛えぬかれており、その剣にはどんなに鋭い剣もたち向かうことはできません。ミカエルは、真向から一挙でほうむり去ろうと、激しい勢いでその剣をふりおろしました。
ルシファーはその剣を剣で受け止めましたが、次の瞬間、ルシファーの剣は真っ二つに切断されてしまいました。
さらに、ミカエルは目にもとまらぬ速さで剣を後方に弧を描いてふりかぶり、再びルシファー目がけてふりおろしました。その剣は彼の右の脇腹を深くえぐったのです。
この時、ルシファーは初めて苦痛を知り、身をよじりころげまわりました。ミカエルの剣はそれほど深く身体に食い込み、無残な傷ロを大きくあけたのです。
ルシファーの誇り、打ち砕かれる
ルシファーの肉体は天使としての霊質を失っていません。開いていた傷ロはもまなく塞がってきました。
もし天使が血を流すとすれば、かくもあろうかと思われるような、聖なる血に似た体液がその傷から噴き出していました。それまで輝いていたルシファーの鎧を、真っ赤に染めてたのです。
たちまち、多くの精鋭天使の一隊が、四方八方からルシファーの救援に駈けつけます。中に割って入り、彼の防衛に当たります。
一方、他の一隊はルシファーを楯に乗せ、戦列から離れた地点に置かれていた戦車に運んでゆき、静かに彼を寝かせました。
力においては神と同等であるはずだという、ルシファーの自信が打ち砕かれてしまいました。天下無敵どころか、ミカエルの反撃にあって誇りも泥まみれになったという屈辱とで、ルシファーはどうしようもなく歯ぎしりして怒っていました。
天使の身体の秘密
ルシファーの傷は、まもなく癒えました。なぜなら、天使というものは脆い人間のように、脳、心臓、肝臓や腎臓といった体の器官がバラバラでなく、体のあらゆる部分においてその生命力を維持しています。つまり、全身的な打撃によるのでなければ、死ぬということはないのです。
また、流動的な組織をもつその霊質は、あたかも漂う空気と同じように、致命的な傷を受けることはありません。天使は、あたかも全身これ心臓であり、頭脳であり、眼であり、耳であり、知性であり、感覚であるかの如くに生きているのです。
自由自在、その思うとおりの体を自らそなえ、また好むがままに、密であれ疎であれ、いかなる色であれ、いかなる形、大きさであれ、変えることができるのです。
