聖アントニウスの誘惑 その2
ヒエロニムス・ボス作〈聖アントニウスの誘惑〉と同じくらい、大好きなサルバドール・ダリ作〈聖アントニウスの誘惑〉。ボスの絵画には様々な誘惑がありましたが、ダリは「誘惑」の概念を象徴的に描いているかのようです。さすが、シュールレアリズムの重鎮です。
シュールレアリズムのもう一人の巨匠マックス・エルンスト。彼も頭の中にある聖アントニウスの誘惑をイメージで描いているかのようです。どちらの絵画も、そのぶん分かりにくくなっています。もはや聖アントニウスの人としての誘惑ではなく、〈誘惑〉そのものをテーマにした絵画のようです。
ダリ〈聖アントニウスの誘惑〉
聖アントニウスの誘惑 第二の苦行
(つづき)アントニウスが天井をみあげると、明るい一条の光が射しこみ、光は悪魔たちすべてを追い払いました。この光は、主の救いの手だったのです。アントニウスは、安らぎを取り戻しました。
「主よ、どこにおられたのですか? なぜ、最初のときはここに来てくださらなかったのでしょうか? それになぜ、わたしの傷も治してくだされなかったのでしょうか?」
アントニウスが主に向かって言うと、
どこからともなく
「アントニウスよ、私はあなたのそばにいた。しかし、あなたの戦いぶりをみたかったから、そのままにしていたのだ。
あなたはじつに勇敢に戦った。これからは、いつでもあなたに救いの手をのべよう。そしてあなたの名声を広く伝えよう」
この言葉を聞くと、アントニウスは立ち上がり熱心に祈りました。
聖アントニウスの誘惑 第三の苦行
アントニウスが、地下墓地で35歳まで過ごしていたある日のこと。彼は神にたいする奉仕をもっと強烈なものにしたい、という思いが生まれてきました。彼は、地下墓地を出る決心をしました。彼はピスピルの山に向かい、無人の荒れた砦を発見して、そこを第三の苦行の地にしたのです。その後、砦の扉を閉めきったまま、およそ20年間厳しい修行を続けます。
20年間、アントニウスは一度もそこから外に出ず、また誰ともいっさい会いません。そのことはやがて人々の間で話題になり、ピスピルの砦の近くには、彼に会いたいと各地から人々が多く押しかけてきたのです。彼はそうした人々を前にして説教をしました。
やがて、ピスピルの山には修道院が建ち並び、砂漠は修道僧でいっぱいになりました。彼は、修道士たちに自分の体験を語って聞かせたのです。アントニウスはこうして文字通り、「修道院の創設者」あるいは「修道士の父」となったのです。
ブリューゲルの版画〈聖アントニウスの誘惑〉
聖アントニウスの誘惑 第四の苦行
アントニウスは砦から出たあとの数年間、彼を慕って集まった修道僧たちとともに生活していました。これは修道僧たちの強引な押しかけに、しぶしぶ応じていたためです。彼としては、不本意な生活です。そして、60歳を越えたアントニウスは、第四の苦行の地としてコルズム山に向かいます。
コルズム山のアントニウスは、頻繁に奇跡を起こしました。後になって、彼が病気(丹毒やペスト)を治す聖者として崇めらるようになったのは、奇跡の大半が病気の治療だったからです。それから約40年間、死去する356年(105歳)まで、彼は修道士の教育、奇跡(病気の治療)の日々でありました。
そして、ある日、アントニウスは神から自分の死が近いことを知らされます。彼には、世話をしていた二人の弟子がいました。アントニウスは彼らを呼び、自分はもうすぐ死ぬということ、埋葬のことなどについて話すと、二人の弟子はアントニウスを抱きしめました。
アントニウスが死ぬと、二人の弟子は言いつけに従って、彼の死体を誰にもわからないところに埋葬したのです。
死後およそ200年たった西暦561年にその墓が発見されました。発見された聖骨は、まずアレキサンドリア、そしてコンスタンティノポリスへ。さらに、聖骨は1000年頃フランスのリヨンの近くのベネディクト会修道分院へ。1491年には同じくフランスのランス近郊のサン・ジュリアン教会へ運ばれました。
参照:聖アントニウスの生涯
マックス・エルンスト〈聖アントニウスの誘惑〉
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