サウルはその子ヨナタンおよびすべての家来たちにダビデを殺すようにと言った。
しかしサウルの子ヨナタンは深くダビデを愛していた。ヨナタンはダビデに言った、
「父サウルはあなたを殺そうとしています。それゆえあすの朝、気をつけて、わからない場所に身を隠していてください。わたしは出て行って、あなたがいる野原で父のかたわらに立ち、父にあなたのことを話しましょう。そして、何かわたしにわかれば、あなたに告げましょう」
サウルはダビデの家に使者たちをつかわして見張りをさせ、朝になって彼を殺させようとした。しかしダビデの妻ミカルはダビデに言った、
「もし今夜のうちに、あなたが自分の命を救わないならば、あすは殺されるでしょう」
そしてミカルがダビデを窓からつりおろしたので、彼は逃げ去った。
ダビデはラマのナヨテから逃げてきて、ヨナタンに言った、
「わたしが何をし、どのような悪いことがあり、あなたの父の前にどんな罪を犯したので、わたしを殺そうとされるのでしょうか」
ヨナタンはダビデに言った、
「あすはついたちです。あなたの席があいているので、どうしたのかと尋ねられるでしょう。 三日目には、きびしく尋ねられるでしょうから、先にあなたが隠れた場所へ行って、向こうの石塚のかたわらにいてください。 わたしは的を射るようにして、矢を三本、そのそばに放ちます。そして、『行って矢を捜してきなさい』と言って子供をつかわしましょう。
わたしが子供に、『矢は手前にある。それを取ってきなさい』と言うならば、その時あなたはきてください。主が生きておられるように、あなたは安全で、何も危険がないからです。
しかしわたしがその子供に、『矢は向こうにある』と言うならば、その時、あなたは去って行きなさい。主があなたを去らせられるのです。あなたとわたしとで話しあった事については、主が常にあなたとわたしとの間におられます」
さて、ついたちになったので、王は食事をするため席に着いた。王はいつものように壁寄りに席に着き、ヨナタンはその向かい側の席に着き、アブネルはサウルの横の席に着いたが、ダビデの場所にはだれもいなかった。
しかし、ふつか目すなわち、ついたちの明くる日も、ダビデの場所はあいていたので、サウルは、その子ヨナタンに言った、
「どうしてエッサイの子は、きのうもきょうも食事にこないのか」
ヨナタンはサウルに答えた、
「ダビデは、ベツレヘムへ行くことを許してくださいと、しきりにわたしに求めました。彼は言いました、『わたしに行かせてください。われわれの一族が町で祭をするので、兄がわたしに来るようにと命じました。それでもし、あなたの前に恵みを得ますならば、どうぞ、わたしに行くことを許し、兄弟たちに会わせてください』。それで彼は王の食卓にこなかったのです」
その時サウルはヨナタンにむかって怒りを発し、彼に言った、
「あなたは心の曲った、そむく女の産んだ子だ。あなたがエッサイの子を選んで、自分の身をはずかしめ、また母の身をはずかしめていることをわたしが知らないと思うのか。 エッサイの子がこの世に生きながらえている間は、あなたも、あなたの王国も堅く立っていくことはできない。それゆえ今、人をつかわして、彼をわたしのもとに連れてこさせなさい。彼は必ず死ななければならない」
あくる朝、ヨナタンは、ひとりの小さい子供を連れて、ダビデと打ち合わせたように野原に出て行った。そしてその子供に言った、
「走って行って、わたしの射る矢を捜しなさい」
子供が走って行く間に、ヨナタンは矢を彼の前の方に放った。そして子供が、ヨナタンの放った矢のところへ行った時、ヨナタンは子供のうしろから呼ばわって、「矢は向こうにあるではないか」と言った。ヨナタンはまた、その子供のうしろから呼ばわって言った、「早くせよ、急げ。とどまるな」
その子供は矢を拾い集めて主人ヨナタンのもとにきた。しかし子供は何も知らず、ヨナタンとダビデだけがそのことを知っていた。
ヨナタンは自分の武器をその子供に渡して言った、
「あなたはこれを町へ運んで行きなさい」
子供が行ってしまうとダビデは石塚のかたわらをはなれて立ちいで、地にひれ伏して三度敬礼した。そして、ふたりは互に口づけし、互に泣いた。やがてダビデは心が落ち着いた。
その時ヨナタンはダビデに言った、
「無事に行きなさい。われわれふたりは、『主が常にわたしとあなたの間におられ、また、わたしの子孫とあなたの子孫の間におられる』と言って、主の名をさして誓ったのです」
こうしてダビデは立ち去り、ヨナタンは町にはいった。