水を油に変える奇跡
10月29日は、カトリック教会で「聖ナルチッソ」を記念する日です。
この聖人は、年を重ねてから大きな司教の務めに就きながらも、嘘の中傷を受けつつ信仰を守り抜き、祈りと黙想の中に道を見いだしました。その深い静けさと信頼の姿には、どんな年齢でも神さまの召しに応える姿勢が響いています。
今回は、そんな聖ナルチッソの物語を、ゆっくりお届けします。
Contents
聖ナルチッソ|プロフィール
- 名前
聖ナルチッソ/Saint Narcissus of Jerusalem - 生没年
おおよそ 紀元99年頃〜216年頃(あるいは117歳まで生きたという伝承もあります) - 出身地・時代背景
ギリシャ系と伝えられ、後にエルサレム(当時はローマ帝国支配下の都市)で司教として仕えました。 - 肩書き・役職
司教(エルサレム司教)/信仰の告白者(Confessor)
聖ナルチッソの生涯
青年期からの転機
聖ナルチッソはかなりの高齢になってから、エルサレムの司教に任命されたと言われています。例えば「ほぼ80歳のときにエルサレム教区長に就いた」という記録があります。
これは、若さだけが奉仕の条件ではないという強いメッセージになります。
信仰と活動の展開
ある年の復活祭の前夜、教会の灯を灯すための油がなくなってしまったとき、ナルチッソは「水を汲んで来なさい」と命じて、祈った後に灯油として使えるように変えた、という奇跡の物語があります。
これは、限りある資源であっても、神の働きを信じることで希望が広がるという象徴的なエピソードです。
また、彼と テオフィルス(カイザレア司教)らが会議を主導し、復活祭を「必ず日曜日に祝う」と決めたという教会史における重要な決定にも関わりました。
晩年の病や評価
聖ナルチッソは偽りの罪で訴えられ、信者たちは彼の無実を信じていましたが、本人はその騒動をきっかけに、望んでいた「祈りと黙想」のためにエルサレムを退きます。
その後、数年後に教区へ戻り、高齢のために補佐司教として アレクサンドロス を迎え、最後まで司牧の務めを果たしたと伝えられています。
「年齢を重ねてもなお奉仕をあきらめない」という姿勢が、今日の私たちにも力を与えてくれます。
聖ナルチッソの名言・エピソードから学ぶ
エピソードとしては、上で紹介した「水を灯油に変えた奇跡」が非常に象徴的です。
この出来事の背景には、教会の務めを果たすための燃料が尽きたという危機がありましたが、彼は恐れずに「神が必要を満たしてくださる」という信頼を行動で示しました。
この話から私たちは、「限界や足りなさを嘆く前に、小さな“水”でも神の手によって“油”に変えられる可能性がある」という希望を受け取ることができます。
カトリック的ポイント解説
神学的に大事にしたテーマ
「信頼」:リソースが尽きたときでも神を信じて踏み出した。
「謙遜と服従」:高齢になってから司教職を担い、補佐を迎える柔軟さ。
「祈りと黙想」:公務から離れて静寂を求めた経験が、司牧に戻る力となった。
現代の信仰生活にどう生きているか
現代でも「何かが足りない」と感じるとき、私たちは焦ってしまいがちです。しかし聖ナルチッソは、「神にゆだねて静かに待つ」ことを選びました。年齢、環境、立場に関わらず、まず信頼し、次に行動する姿勢を学べます。
また、高齢者や引退後の世代が教会や社会において「役割を終えた」と感じるのではなく、むしろ豊かな経験を生かして奉仕できることを、この聖人は示してくれています。
聖ナルチッソ|ゆかりの地・書籍・芸術
- ゆかりの地
エルサレム(古くは「アエリア・カピトリナ」)の司教として仕えた地。 - 書籍・伝記
教会史家 エウセビオス の『教会史』にも彼の奇跡や司教としての働きが記されています。 - 芸術作品
聖ナルチッソは司教服を着て、水差し(灯をともす油に関係する象徴)を持った図像で表されることがあります。
まとめ|今日の聖人から学べること
聖ナルチッソは、年齢を重ねた“遅咲き”の司教でしたが、その人生において「信頼」「奉仕」「静けさ」が一貫して輝いていました。
灯をともす油が尽きたとき、水を差し出し、神の力でそれを油に変えた奇跡に象徴されるように、私たちもまた「足りない」と感じるところから信仰を出発点にできます。
偽りの告発を受けて教区を去った時も、怒りや復讐ではなく、黙想と祈りを選び、再び使命に戻った姿からは、傷ついた心でも用いられるという希望を得られます。
そして何より、「年齢を重ねたから役割が終わった」ではなく、「経験が生きる場がある」と示してくれたこの聖人の姿は、すべての世代にとって励みとなるものです。

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