
10月25日は、カトリック教会で「聖クリスピノとクリスピニアーノ兄弟」を記念する日です。
ローマの貴族の家に生まれながら、財産を捨てて靴職人として働き、宣教に生きた兄弟の姿には、ものづくりへの尊さ、信仰への確かな覚悟が映し出されています。
彼らが持っていた「靴」という職人の道具が、単なる道具以上の意味を帯びるまでになったその物語を、一緒にたどってみましょう。
Contents
聖クリスピノとクリスピニアーノ兄弟|プロフィール
- 名前
聖クリスピノと聖クリスピニアーノ兄弟/Saints Crispin and Crispinian - ・生没年
生年:3世紀頃(正確な年不詳)・没年:約287年ごろ/殉教 ※一般的に「286年ごろ」ともされます。 - 出身地・時代背景
ローマ(帝政ローマ)出身。3世紀後半、クリスチャン迫害が激しかった時代に、ガリア(現在のフランス、特にソワソン付近)で宣教活動を行いました。 - 肩書き・役職
伝承上は宣教師、職人(靴職人)/殉教者。靴製造・革加工を通じて福音を伝えたものづくりの守護者。
聖クリスピノとクリスピニアーノ兄弟の生涯
青年期からの転機
兄弟は、ローマの貴族の家に生まれ、幼少期からキリスト教信仰を持っていたと伝えられています。
迫害が始まると、すべての財産を捨ててガリアの地へ逃れ、そこで宣教の道を選びました。伝承では、彼らは夜に靴を作りながら、昼間には人々にキリストの教えを告げたとされます。
信仰と活動の展開
拠点を置いたのはソワソン近郊とされ、そこで靴職人として働きつつ、貧しい人々には靴を無償で提供。また、職人の作業場が“福音を語る場”となり、多くの人々がクリスチャンとなっていきました。
しかし、ローマ皇帝(伝承では マクシミリアヌス)がその地を訪れた際、兄弟はキリスト信仰を捨てないとして訴えられ、捕縛されます。拷問を受けながらも断固として信仰を守り、最終的には斬首の刑を受けて殉教しました。
このように、彼らは“働く宣教師”として、手を動かしながら信を告げるという稀な姿を現しました。
晩年の殉教とその意義
兄弟の殉教は、286年ごろとも言われ、彼らの生涯はその後多くの職人ギルドにとって象徴となりました。
靴職人・革職人・製皮業者などの守護聖人として敬われ、彼らの工房の様子や靴作りの道具をモチーフにした芸術作品も残されています。
彼らの生涯は、信仰と働きが一体となった“日常の聖性”を現代に問いかけています。
聖クリスピノとクリスピニアーノ兄弟の名言・エピソードから学ぶ
明確な「格言」として伝えられている発言は少ないのですが、彼らの生涯を通じて語られる言葉があります。たとえば、伝承には以下のような言い回しがあります。
「あなたの脅しは私たちを怖がらせません。なぜなら、キリストが私たちの命であり、死は私たちの益です。」
(出典:カトリック百科事典)
この言葉から読み取れることは、
- 目先の恐れや損失に屈せず、信仰を選んだ決意
- 日常の仕事を通して福音を伝える姿勢
- 職人という立場を恥じることなく、むしろそれを福音の場とした信仰の転換
という三点です。現代においても、「働くこと=召命」を再考するうえで、彼らの言葉と生き方は大きなヒントとなります。
カトリック的ポイント解説
- 神学的に大事にしたテーマ
彼らの生涯から特に強調されるのは「働き(労働)を通した奉仕」と「物質にとらわれない生き方」です。手を動かしながら信仰を語る姿は、働く者としての尊厳とそれを神にささげる姿勢を示しています。さらに、彼らは財産を捨て、貧しい人に靴を与えることで「使徒的貧しさ」と「愛の実践」を体現しています。 - 現代の信仰生活にどう生きているか
今日、仕事に追われて「意味」を見失いがちな人、あるいはクリスチャンとして働きながら伝道の方法を模索している人にとって、彼らの姿はひとつのロールモデルとなります。たとえば、どんな職種であれ、「手を使って、自分の仕事を通じて誰かを支える」「日々の業務を神にささげる」という視点がこの兄弟の生き方から得られます。また、物質主義や消費社会の中で、ものづくりに携わる人たちが「与える心」を忘れないための精神的支えとしても彼らは意味を持ちます。
聖クリスピノとクリスピニアーノ兄弟|ゆかりの地・書籍・芸術
- ゆかりの地
彼らの伝承が強く残るのはガリア(現在のフランス)のソワソン(Soissons)です。6世紀にその地に大きな教会が建立されたと伝えられています。 - 芸術作品・象徴
彼らを描いた絵画や彫刻では、よく「靴/靴製造道具」と「斬首の剣や殉教の象徴的武器」が併記されることが多いです。たとえば、靴職人の道具=職人としての役割、剣=殉教者としての証言、というふたつの側面が描かれています。 - 文学・文化的引用
10月25日は聖クリスピノとクリスピニアーノ兄弟の祝日であり、同時にシェイクスピアの戯曲『ヘンリー五世』で有名な「聖クリスピンの日の演説」が語られる日でもあります。
王ヘンリー五世は戦いを前に兵士たちへこう呼びかけます。
「私たちは少数だ。だが幸福な少数だ。兄弟の絆で結ばれた仲間たちだ。」
この言葉は“聖クリスピンの日(St. Crispin’s Day)”の精神と重なり、友情と勇気を象徴する名台詞として、今もイギリス文化の中で語り継がれています。
まとめ|今日の聖人から学べること
聖クリスピノとクリスピニアーノ兄弟は、貴族の出身から一転して靴職人となり、単なる職人としてではなく、手を働かせながら福音を伝える宣教師としての道を選びました。
彼らが夜間に靴を作って日中に教えたというその姿には、働くことそのものを神への奉仕と捉える視点があり、物質に執着せず「与える生き方」を全うしました。
そして、迫害に直面しても信仰を捨てず、殉教を通じて自身の生涯を神への捧げものとしました。
ものづくりや職人の仕事を尊び、その手元にある道具や材料にも価値を見出す――そんな小さな祈りが込められています。

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