天使ガブリエルとザカリア
長い祈りと沈黙の歳月を経て、老いたザカリアに天使ガブリエルが現れました。
「その子をヨハネと名づけなさい」——それは神が人々に希望をもたらす始まりでした。
信仰を貫いた聖ザカリアと聖エリザベトの物語をたどります。
義なる夫婦ザカリアとエリザベトの信仰
ルカ福音書は、洗礼者ヨハネの両親であるザカリアとエリザベトを「神の前に正しい人で、主の掟と定めをすべて守り、非のうちどころがなかった」と記しています(ルカ1:6)。
二人は祭司の家系に生まれ、神を敬う静かな生活を送っていました。しかし、長年子どもに恵まれず、周囲からは試練の人生と見られていたのです。
それでも二人は、神の御旨を信じ、祈り続けました。彼らの信仰は、苦しみの中でも希望を失わない「静かな義」の象徴といえるでしょう。神はその誠実な祈りを聞き届け、やがて大いなる奇跡をもたらしました。
ガブリエルの告知とザカリアの沈黙
ある日、エルサレム神殿で香を焚く務めに当たっていたザカリアの前に、天使ガブリエルが現れました。
「恐れるな、ザカリア。あなたの祈りは聞き入れられた。妻エリザベトは男の子を産む。その子をヨハネと名づけなさい」(ルカ1:13)。
突然の告知に、年老いたザカリアは信じきれず、「どうしてそんなことがありえましょう」と答えます。
そのため、預言が成就するまで彼は口がきけなくなりました。神は沈黙の中で、彼の信仰を深める時間を与えられたのです。
沈黙は不信の罰であると同時に、神の言葉を深く受け止めるための聖なる訓練でもありました。
エリザベトの喜びとマリアの訪問
やがてエリザベトは懐妊し、喜びに満たされました。「主はこのようにしてくださいました。人々の間で私の恥を取り除いてくださいました」(ルカ1:25)。
長年の悲しみから解放された彼女の心は、感謝と賛美で溢れていました。
その6か月後、親戚のマリアが訪れたとき、胎内のヨハネは喜び踊り、エリザベトは聖霊に満たされて「あなたは女の中で祝福された方」とマリアを祝福します(ルカ1:41-42)。
この場面は、旧約と新約が交わる象徴的な瞬間です。二人の女性が共に神の救いの計画を喜び、未来への信頼を新たにしたのです。
ヨハネの誕生とザカリアの賛歌
子が生まれた日、親類たちはその子に父の名を取って「ザカリア」と名づけようとしました。しかし、ザカリアが板に「この子の名はヨハネ」と書くと、たちまち口が開かれ、神を賛美しました(ルカ1:63-64)。
そのとき彼が歌ったのが「ザカリアの賛歌(ベネディクトゥス)」です。
「ほむべきかな、イスラエルの神、主よ。その民を顧みて贖いをなし給うた」(ルカ1:68)。彼の沈黙は賛美へと変わり、信仰の試練を通して、神の約束の確かさが明らかになったのです。
殉教の伝承と信仰の遺産
後の伝承によると、ヘロデ王が幼子ヨハネを探した際、ザカリアはその所在を明かさず殺されたと伝えられています。
彼の最期は、命よりも信仰を選んだ証しでした。エリザベトもまた、神の導きの中でヨハネを守り抜いたといわれます。二人の生涯は、神の約束を信じ続ける者への希望を今も語り続けています。
「神にとって不可能なことは何一つない」(ルカ1:37)。
その信頼こそ、彼らが残した最大の遺産です。ザカリアとエリザベトの夫婦愛と信仰は、今日も祈りをささげる人々に静かな励ましを与えています。
まとめ
聖ザカリアと聖エリザベトの物語は、「信じることの力」を静かに語りかけてきます。
神の約束は、私たちの思いを越えた時に実現し、沈黙の中にも希望が宿ります。二人のように、苦しみの中でも神を信じ続ける信仰は、今も変わらず私たちの心を照らしています。
彼らが示した信頼と祈りの姿は、人生の試練の中にあっても、神の光を見失わないための道しるべなのです。
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