「天使であっても、極めて優れた武器に対し、苦痛や苦悩を知らない全能の神の天使と戦うことがどれほど困難か。我々はその辛さを身をもって知っています」
と、疲労の色を隠さず、ルシファーに向かって訴えました。
しかし、ルシファーの頭の中には、すでに新しい物質を使った新兵器の構想がありました。
強い武器の必要性を訴えるニスロク
ルシファーの演説の後、次に立ち上がったのは、権天使の首領であるニスロクでした。その姿は、まさに修羅場から脱出したばかりのようで、疲労の色を隠さず、ルシファーに向かって訴えました。
「新しい支配者である神の独り子から、我々を解放し、天使としての権利を自由に享受させてくれるとして、我々を導いている指導者ルシファーに対して言いたいことがあります！
天使であっても、極めて優れた武器に対し、苦痛や苦悩を知らない全能の神の天使と戦うことがどれほど困難か。我々はその辛さを身をもって知っています。
このような武器の差があると、敗北は明らかです。苦痛は、どんな勇者の力も弱めます。そのような苦痛に苦しめられると、いかに天使であっても、我々の勇気や力は何の役にも立ちません。
快楽を生む感覚がなくなっても、不平を言う必要はありません。むしろ、それに満足することもできるでしょう。それが平穏な生活というものです。
しかし、苦痛は極めて悲惨なものです。最後には全ての忍耐力を奪い取ります。今こそ、無敵の敵に対抗できる強力な武器を発明する必要があります。そのような武器を発明した者は、我々の感謝に値するでしょう」
ルシファー、ある物質を使った新兵器を考案する！
ニスロクの訴えに対して、泰然自若とした表情でルシファーは答えます。
「味方が勝利するためにはぜひ必要だと、お前が指摘したまさにそのものを私は考案したのだ。今それを披露したい。
我々が立っているこの天の大地、つまり草木や果実やよい香りを持つ花や宝石や黄金で美しく飾られたこの広い天の大地の輝く表面をよく見るがよい。
お前たちの目は、表面的にこういったものを見るだけなのか？ 地下の奥深いところから生じているものが見えないのか？
つまり、精気と火気を帯びた泡状の暗く生々しい物質があるのだ。その物質が天の光線を受け、鍛えられて美しく生成している。そして、その物質は、周囲の光に向かって燦然と輝き出たものであることを、見逃すはずはないと思うのだが......。
この物質を、地獄のような火炎をはらんだ生の状態のままで掘り出したいと考えている。
そして、それを空洞の長く丸い装置の中にぎっしりと詰め込む。一方の穴に火を点ければ、それはたちまち膨脹し烈火のように立ち上がる。その時、雷鳴のような轟音とともに、どんなに遠くからでも、恐ろしい破壊力を持った弾丸を敵陣深くに打ち込むはずだ」
※ルシファーは大砲を考えています。大砲は百年戦争（1339〜1453年）の頃から使われました。それがミルトン（1608〜1674年）には、新しい武器と思われていたのでしょう。また、次に出てくる全能の神の「雷霆」は、オリュンポスの大神ゼウスの武器です。
ルシファー、新兵器の威力を語る！
「その威力は、敵対する一切のものを粉々に砕き、徹底的に圧倒する強さを持っている。敵も恐怖に震えあがり、我々がいつの間にか全能の神からその唯一の恐るべき武器である雷霆を奪ってきたと思うに違いない。
新兵器を造る作業も長い時間はかからないだろう。夜明けまでには、希望通りに仕事は終わるはずだ。それまでには、元気を取り戻し、恐怖心などはきれいさっぱり拭い去っておいてほしい。
力と正しい判断が一体となっていれば、困難なものは何もない。いわんや、絶望するなどもってのほかと知るべきだ」
ルシファーの言葉によって、一同の気持ちも明るくなり、ほとんど失いかけていた希望も蘇りました。彼らは全員ルシファーの創意工夫に驚嘆するとともに、なぜ自分がこのことに気づかなかったのかと思いました。
まだ見つからない間は、誰の目にも不可能だと思われていたものでも、いったん見つかってしまえば、それは簡単なものだと思われたのです。
