Categories: 聖書人物ドラマ

ヨセフはなぜ赦すことを選んだ?夢が導いた大逆転の物語!

兄たちは、目の前に立つエジプトの宰相が、かつて自分たちが売った弟だとは気づいていません。食糧を乞うために頭を下げるその姿を、ヨセフは黙って見つめています。

そこに至るまでに、彼の身に起きた出来事は、あまりにも多く、あまりにも急でした。若い日に語った夢。父の家からの引き離し。異国での奴隷生活と牢獄の日々。その一つひとつが、彼をこの場所へと運んできました。

ヨセフはまだ名を明かしません。声をかけることも、過去を語ることもしません。ただ、その時が来るまで、沈黙の中で兄たちを見ています。

夢を語ったヨセフが兄たちに売られる

ヨセフは父ヤコブに愛された少年でした。兄たちとは違う衣を与えられ、そのこと自体が、すでに家族の空気を変えていました。

さらに彼は、見た夢をそのまま語ります。
「私たちが畑で束を縛っていると、私の束が立ち上がり、あなたがたの束がその周りに立って、私の束を伏し拝みました」

兄たちはその言葉を聞き返します。「お前は本当に、私たちを治める王になるのか」
聖書は、彼らが「ますます彼を憎んだ」とだけ記します。感情の説明はありません。ただ、憎しみが深まったという事実だけが置かれます。

ヨセフはさらにもう一つの夢を語ります。「太陽と月と十一の星が、私を伏し拝みました」
父ヤコブは彼を戒めますが、その言葉を心に留めました。兄たちは黙り込みます。その沈黙の中で、夢は宙に残されます。

やがて兄たちはヨセフを遠くの牧草地へ連れ出します。助けを求める声が上がり、穴に落とされ、「この夢見る者を殺そう」という言葉が交わされます。最終的に彼は殺されず、商人に売られます。

彼は殺されず、商人に売られ、その場から姿を消しました。

ポテパルに売られるヨセフ

奴隷として売られ牢に入れられるヨセフ

ヨセフはエジプトに連れて行かれ、奴隷として売られます。聖書は簡潔に、「主がヨセフと共におられたので、彼は栄えた」と記します。その言葉の前後に、彼の感情は描かれません。任された仕事を果たし、信頼を得たことだけが語られます。

しかし状況は一転します。主人の妻は、ヨセフが自分に迫ったと訴えます。

衣を手に残したまま、彼女は叫び、その訴えを主人に伝えました。その結果、ヨセフは弁明の機会を与えられないまま牢に入れられます。鉄の扉が閉まり、彼は再び人目の届かない場所へ送られました。

牢の中でも、ヨセフは役目を与えられます。そこに王の給仕役と料理長が入れられ、二人はそれぞれ夢を見ます。

ヨセフと王の給仕役・料理長

給仕役は、ぶどうの木が芽を出し、房を実らせ、その実を杯に搾って王に差し出す夢を語ります。料理長は、頭の上の籠に焼き菓子を載せて歩いていると、鳥がそれを食べる夢を語りました。

ヨセフは彼らに声をかけます。「どうして今日は顔色が悪いのですか」。夢を聞いたあと、彼は言います。「解き明かしは神のものではありませんか。どうぞ私に話してください」

ヨセフは給仕役に、三日のうちに元の役目に戻されることを告げ、料理長には、三日のうちに命を失うことを告げます。そのとおりの出来事が起こり、給仕役だけが王のもとに戻されました。

しかし、ヨセフはすぐには解放されません。「私を思い出してください」という願いは、忘れられたまま、日々が過ぎていきます。

コラム:ヨセフの夢
  • 束の夢(ヨセフ1)
    畑で兄弟たちと束を縛っていると、ヨセフの束だけが立ち上がり、ほかの束がその周りに集まって頭を下げました。この夢は、後にヨセフが宰相となり、飢饉の中で兄弟たちが彼の前にひれ伏す場面として、そのまま現実になります。
  • 太陽と月と十一の星の夢(ヨセフ2)
    空に太陽と月、そして十一の星が現れ、それらがヨセフに向かってひれ伏しました。太陽は父ヤコブ、月は母、十一の星は兄弟たちを指し、家族全体がヨセフの前に集まる未来を示す夢として語られています。
  • ぶどうの木の夢(給仕役)
    給仕役は、三本のつるを持つぶどうの木が芽を出し、実を結び、その実を杯に搾って王に差し出す夢を見ました。三本のつるは三日を示し、三日後に彼が元の役目へ戻されることを告げる夢でした。
  • 三つの籠の夢(料理長)
    料理長は、頭の上に三つの籠を載せ、その中の料理を鳥が食べてしまう夢を見ます。三つの籠は三日を示し、三日後に命を失うという厳しい結末を告げる夢でした。
  • 七頭の雌牛と七つの穂の夢(ファラオ)
    ファラオは、肥えた七頭の雌牛が、やせ細った七頭の雌牛に食い尽くされる夢を見ます。また、豊かに実った七つの穂が、東風に焼けた七つの穂にのみ込まれる夢も見ました。どちらも、七年間の豊作と、その後に続く七年間の大飢饉を示す同じ内容の夢でした。

ヨセフの物語では、夢は象徴として説明されるのではなく、語られたとおりの出来事として現れます。夢は彼の人生を導く鍵でありながら、意味づけは最後まで読者に委ねられています。

王の夢を解き宰相となるヨセフ

二年が過ぎた後、ファラオも夢を見ます。ナイル川から上がる肥えた牛と痩せた牛、実った穂と枯れた穂。その夢を解く者は見つかりませんでした。

そのとき、給仕役が王の前で口を開きます。「私の罪を、今日思い出しました」。彼は、牢で出会った若者が夢を解き明かしたこと、その言葉どおりの出来事が起きたことを語り始めます。

王の前に立ったヨセフは言います。「私ではありません。神がファラオに平安の答えを告げられるでしょう」。ヨセフは夢を聞き、七年の豊作と七年の飢饉を語ります。続けて、「賢く、悟りのある人を立て、地に備えをさせてください」と言います。

ファラオは家臣たちに言います。「神の霊の宿るこの人のような者が、ほかにあろうか」。その場で、ヨセフは全権を任されます。その場で、ヨセフは全権を任されました。

ファラオの夢解きをするヨセフ

飢饉で兄たちが宰相ヨセフの前に現れる

やがてエジプトの地だけでなく、周囲の国々にも飢饉が及びます。穀物の備えがあると知られ、人々はエジプトへ向かいました。

その中に、カナンに住むヨセフの兄たちもいました。父ヤコブは言います。「なぜ互いに顔を見合わせているのか。聞くところによれば、エジプトに穀物があるという」。こうして兄たちは旅に出ます。

宰相(ヨセフ)の前に連れて来られた兄たちは、地にひれ伏します。彼らは、通訳を介して命じるこの男が、かつて家で共に育った弟だとは思いもしません。ヨセフは彼らを見て、すぐに分かりましたが、名を明かしませんでした。

彼は彼らを厳しく問い、「あなたがたは間者ではないか」と告げます。

兄たちは身の潔白を訴えます。「私たちは皆一人の父の子です。一人はいなくなり、末の弟は父と共におります」
その言葉を聞いたヨセフは、末弟を連れて来るよう命じ、食糧を与えて帰らせます。

彼らが去ったあと、袋を開けると、支払ったはずの銀がそれぞれの袋の口に戻されているのを見つけます。代金を受け取らずに返されたことに気づき、兄たちは恐れました。

再び兄たちはエジプトへ戻ります。今度は末弟ベニヤミンを伴っていました。ヨセフは彼を見て、宴を設け、兄たちを座らせます。年長の者から順に並べられた席を見て、彼らは不思議に思います。

ベニヤミンには、ほかの者より多くの分が与えられました。その帰途、ヨセフは銀杯を末弟の袋に入れさせ、追っ手を差し向けます。責めを受けた兄たちは言います。「その杯が見つかった者が、あなたの奴隷となります」

やがて銀杯はベニヤミンの袋から見つかります。兄たちはその場で弁明しきれず、衣を裂き、全員で町へ引き返しました。末弟一人を差し出すことができず、再び宰相の前に立つ道を選んだのです。

正体を明かしたヨセフと兄たちの再会

再びエジプトへ引き返した兄たちは、食糧を求めて宰相の前に立ちます。問いを重ね、末弟を伴わせ、銀杯の出来事を経たうえで、彼らの言葉と行動を見定めます。

ユダが前に進み出て、父ヤコブの老いと、末弟を失えば父の命が尽きてしまうことを語り、「どうか、この僕を、あの若者の代わりに奴隷として残してください」と願い出ます。

ついにヨセフは人払いを命じ、声を上げて泣きます。「私はヨセフです。父はまだ生きていますか」

兄たちは驚き、言葉を失います。ヨセフは続けます。「あなたがたが私をここに売ったことを悔やむことはありません。神が命を救うために、私を先に遣わされたのです」

彼はさらに言います。「あなたがたが私をここに遣わしたのは、あなたがたではなく、神です」

語られた言葉と、涙と、家族が同じ地に集められたことが記されています。

父と兄弟を迎え入れるヨセフ

まとめ:ヨセフはなぜ赦すことを選んだ?

ヨセフという人物は、夢を語る少年として始まり、名もない奴隷となり、牢に置かれ、やがてエジプトの宰相として立ちます。その間、彼自身の思いや評価は、ほとんど語られていません。

彼が行ったことは、語られた夢をそのまま受け取り、与えられた場で役目を果たし、求められたときに言葉を返したことでした。兄たちの前に立ったときも、長いあいだ名を明かさず、最後に必要な言葉だけを口にしています。

「あなたがたが私をここに遣わしたのは、あなたがたではなく、神です」

ヨセフの物語に残されているのは、成功や感動ではなく、一人の人間が置かれた場所ごとに選んだ行動の積み重ねです。その連なりの先に、家族が再び同じ場所に集まったという事実があります。

art-who