フランシス・ダンビー〈大洪水〉
ワシ、ここのところ出番がないですが
「大洪水」という心が傷むことを計画してたのと
もっとも嫌なサタンとの駆け引きもあって
あまり、軽口が叩けなかったの。
自分のことだけなら、自由気ままでいいんだけどね。
人間が絡んでくると、そうもいかないのよ。
みんなだって、他人が絡んでくるとやっかいよね〜。
といったところで「大洪水」の話に戻します。
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ガブリエルよ、方舟も完成したし、
生き物のオス・メスもすべてそろったようだな。
「はい、神様、すべて準備OKです」
では、けっして誰にも気付かせぬよう
ノアの家族に方舟に入り出航するように言ってくれ。
また、ガブリエルよ、あなた自身で入り口を外から
アスファルトでしっかり塗り固めておくこと。
そして、陸から100キロほど離れたら連絡してくれ。
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「神様、ノアの方舟は陸から100キロ離れました」
ガブリエルは、神様に報告しました。
神様は、厚い雲で天の下を隠しました。
神様だって、生き物が死んでいくのを見るのは辛いのです。
こうして、
大洪水が、陸という陸を水の下に沈めていきました。
ミケランジェロ〈大洪水〉
方舟に入ったノアの家族たちは、
親しかった隣人に挨拶もしてこなかったことを
神様の命令だとは言え、悲しみました。
また、ゴウゴウと水の音が激しくなってくるので
どんどん不安にもなってきました。
しかし、外で人間が溺れていく姿を
見られなかったことは、ノアにとっては幸いでした。
40日40夜、豪雨は続きます。
地の表にいたすべての生き物は、
人も家畜も、這うものも、空の鳥もみな滅びました。
水は、150日のあいだ地上にみなぎったのです。
ガブリエルとウリエルは、毎日方舟にやってきました。
ガブリエルは、ノアの家族たちを心配してのことです。
ウリエルは、サタンのことを警戒するためです。
何か不幸なことが起こらないか?
心身とも健やかに遅れているか?
自閉症でノイローゼになっていないか?
そして、何より姿を隠している
あのサタンが、今攻め込んできたら、
神様が造られた人と生き物が絶滅してしまうからです。
そもそも、
こんな大洪水を起こす事態になった原因は、
サタンが人の欲望を刺激し、
お互い疑いあい、敵意を持つようにしたからです。
神様は、サタンの意図を知っていたのであろうか?
神の子らが人と交わり、ネプリムが生まれ、
そのネプリムがまた人と交わり、
その結果、訳も分からず劣化していったのは
サタンが「知恵の実」ならぬ、
「狡賢さの実」を植え付けていたからです。
神 vs サタン
これが、アダムとエバの楽園追放後の
人間界の隠れた戦いであったのです。